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イン・ザ・プール [奥田英朗]

伊良部総合病院。その地下にある、神経科の注射フェチ、伊良部一郎博士を中心に繰り広げられる物語。しかし、これをただの物語と思ってはいけない。
現代に生きる、今日まで何ともなかった誰もが、明日には物語の登場人物のようになるやも知れない、そんな身近な問題を変人・伊良部一郎が治療?していくのだ。
容姿もさることながら、性格も子供のような伊良部。初めて訪れた患者は、必ず途中で帰ろうとするが結局帰れなく、それどころか通院してしまうことになる。そして伊良部に心を許し、いつの間にか症状は。。。
ロッキンオンを愛読する、SEXY&無愛想看護師のマユミも味を添える。

◇イン・ザ・プール
出版社勤務のストレス性体調不良の患者。解消のためにプール通いを始め、症状そのものは治まったが、新たな症状が。
過ぎたるは猶及ばざるが如し、ちょっと違うかな。

◇勃ちっ放し
これは男性読者、読みとおすのは非常に辛い。女性には全くわからない感覚。男が生理や出産の辛さをわかることができないのと同じで。
いやー、解決してよかったですよ。
うぅぅぅ~ってなって読んでました。
怒りもたまには爆発させんとあかんね。

◇コンパニオン
自意識過剰が昂じると、このようになります。の例。
一歩外に出ると、ストーカーがウジャウジャ。
いくつもの視線で舐め回されます。
本当だったらたまりません。が、それは妄想の世界。

◇フレンズ
携帯電話は現代人の生活を変えました。
いつでもどこでも、ケータイさえあれば繋がってられる。
孤独な人でも誰かと手軽に繋がることができる。それは、束の間であっても、極々表面的であっても安心を与えてくれる。(気がする)
でも、依存しすぎると。。。
ケータイを家に忘れた時、「大事な連絡がつかなくって困ってるヤツがいるに違いない」などと思えるようになれば、あなたも立派なケータイ依存症。一度、伊良部総合病院の門を叩いてみれば。。。

◇いてもたっても
強迫神経症のルポライター。火の始末が気になって仕方がない。脳内だけなら何回火事を起こしているか。
なので、その火事を未然に防ぐために、確認をする。何度も何度も。列車に乗り遅れるハメになっても、気になるものは仕方がない。しかし、何度確認しても気になる。そのうち、火の後始末に留まらず、自分の手に触れたものは全てその後が気になる。眠れない。
私も時々、家を出る時、鍵をかけたかどうか心配になる時がある。
今までの最高は、駅のホームから家まで戻った。患者のことを笑えない。

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いずれの話も、日常と背中合わせの現代社会を映し出す症状。

この短編集は、見方を変えると精神医療の本、とも言える。かも。
しかし、そこには難解な医学用語も登場せず、また作者も難解な表現や文字を使わず、可能な限り平易な、しかし稚拙ではない言葉を用いて物語を作り上げる。
グイグイと引き込むような迫力はないが、スッと入っていける、入ったらその居心地(読み心地)の良さから、ついつい頁が進む、不思議な魅力がある。
また、一つ一つの物語の長さが絶妙なのも特徴。これより長いと話がダレて、短いと物足りない。
難を言えば、展開に意外性がないので、このままだとこのシリーズもネタ枯れ・頭打ちかな、と。

活字離れが叫ばれて久しいが、この物語ならば、読むことが不得手な人にも比較的入りやすいのでは、と思った。
本を読むのに抵抗がある人、読みたいのに何を読んでいいのかわからない人、本書はお勧めです。高校生の読書感想文にもいいかもね。

奥田英朗・著 ISBN4-16-320900-X 文藝春秋

因みに映画化されます。東名阪福で、ほぼ単館に近い形で来春公開。
「いま、会いにゆきます」で重要なチョイ役を演った松尾スズキが伊良部です。
http://www.herald.co.jp/official/pool/index.shtml


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